名古屋大学は,『学術憲章』において,「人間と社会と自然に関する研究と教育を通じて,人々の幸福に貢献すること」を大学の使命とし,そのための研究及び教育の基本目標並びに社会的貢献の基本目標を明らかにしている。また,「大学運営の基本方針」として,すべての教職員及び学生の学問研究の自由を保障するとともに,各構成員が大学の理念及び目標の策定並びに実現に積極的に参画すること並びに自らの不断の努力によって大学の発展に寄与することを求めている。
こうした大学運営のあり方を支える上で,大学のすべての構成員が,互いに他の者を対等な人格と認め,その自由及び権利を尊重しあうことが不可欠である。大学での日常的な活動は,個人的な信頼関係及び指揮命令に基づく協働作業が交錯する場において行われる。しかしながら,そうした場は,差別,いじめ・嫌がらせ等,相手を不快にさせたり,又は尊厳を傷つけたりする様々なハラスメントによる人権侵害の起こる空間にもなりうる。名古屋大学のすべての構成員は,このことを十分に自覚して,大学の良好な環境の維持発展に努めなければならない。
教育・研究活動に関わる大学運営において,地位又は影響力を有する者は,それらを有効に活用することで,すぐれた成果を挙げ大学に貢献することが期待されている。とりわけ教員は,学生に対する教育・指導・評価といった権限を有している。しかし,そうした権限若しくは影響力を濫用し,又は職務を逸脱して,教育・研究指導を受ける者若しくは職務に従事する者の人格又は権利を侵害することは,決して許されない。人類の幸福に貢献するという名古屋大学の崇高な使命を全うすべく,大学のすべての構成員は,自由及び権利を享受すると同時に,厳しい自己規律を維持しながら教育,研究及び就業活動に従事すべき義務を負っている。
他方で,ハラスメントの被害者は,深刻な苦痛を被るだけでなく,日常の生活を取り戻すまでに長い時間を要する等,経済上及び健康上,重い負担を負う場合がある。それはまた,大学全体にとっても大きな損失をもたらす。なぜならば,有為な人材の育成が滞り,教職員又は学生の能力が十分に発揮されないことになり,さらには,これまで名古屋大学の先人たちが築いてきた職場及び教育・研究環境を破壊することにもつながるからである。
大学では,何よりもハラスメントが発生しない環境を作ることが大切である。しかし,不幸にもハラスメントが生じた場合には,大学は,速やかに被害者の権利を回復し,良好な環境を取り戻すために,当事者による自主的な解決への援助,専門家による相談,又は関係機関の連携協力により柔軟かつ適切な対応を行うなどして,誠実に問題解決に取り組まなければならない。
名古屋大学は,以上のように,大学のすべての構成員の厳しい自己規律及び誠意ある協力に基づき,ハラスメントの徹底的な防止及びその対策の実施に努める。